id:jkondoが聞く、はてなブックマークリニューアルの舞台裏

とても、いいインタビュー記事が、はてなより公表されました。
ITベンチャー企業というものが、どういうプロセスを通過してサービスを
つくっていくのかが、よくわかります。

会社の社長が自ら、インタビュアーを勤めて、
部下に、いろいろ話を聞くというスタイルはとても新鮮です。
だって、普通、雑誌とかで目にするインタビューは、雑誌の記者が、
外部の人に取材するという形式になるでしょ。

しかし、この記事を読んでいると、会社の社長こそ、こういうことを
しっかりやらないといけないのではないかと思いました。
つうか、社長になりかわって、社内の情報を収集して、常に
会社全体の状態がわかるようにする仕事が、
「総務」とかになるのかな。
このインタビューは、社長が、なんでもやっていた「はてな」
が、本格的に組織として、動く会社になったということを示す
区切りになるのかもしれない。
「かも」ではなくて、そう思う。

はてな社長

9ヶ月、すごいですね。3/4年という長期間ですけど、最初は1人で?

naoya
最初は一人でしたね。最初というか、かなり一人でしたね。デザイナーのid:nagayamaが隣でデザインを作っていたんですが、システムとデザインは最初ばらばらなので、システム開発自体は2〜3ヶ月の間実質一人でした。

jkondo
だんだんブックマークチームのメンバーが増えていったんですよね。どんな経緯で増えたんですか?

naoya
最初は一人で全部作るつもりだったんですけどかなり見積もりが甘くて。自分の能力を過信し過ぎてて、これは無理だということに。

jkondo
一人で、いつをめどにリニューアルするつもりだったんですか?

このやり取りで興味深いのは、はてなの社長と、伊藤さんの「距離」です。
ソーシャルブックマークのリニューアルって、はてなという会社からしたら、かなり大切な事業だと
思います。そうでしょ。
ところが、社長さんは、どうやら、当初このプロジェクトが、伊藤さん一人の下で、もっぱら動いていたという
ことも、あまり把握されていなかった模様。

この引用の最後の行の社長の質問に対する伊藤氏の回答がまた面白い。

夏ぐらいまでに。どれだけ自分に過剰な自信を持ってるんだって感じなんですけど。チームになったのは、一人では無理というのもあったんですが、会社全体が組織でものを作る方向にシフトしていて、その方がいいものが作れるという事例がはてなフォトライフのリニューアルなどを見てわかってきて。自分もその前の1年間はインフラをチーム体制でやっていたので、チームの方がいいだろうという判断で、人を少しずつ増やしていったんですね。

はてなを代表するコンピューター職人が、マネジメントに目覚める瞬間というものが、よく伝わってきます。
IT系の仕事の性格などもわかります。

はてなの社長

振り返ってみて、スクラッチから書こうという決断はどうでした?

naoya
正しかったと思っています。リニューアルをして、見た目が変わって機能もいくつか便利になったけど、そんなに変わったという印象を持たれないユーザーさんもいると思うんですね。でも内部的な話でいうと、開発チームの体力が、昔が1なら今は100くらいあるので。

jkondo
それは開発力?

naoya
開発力も企画力も、すべてにおいてです。例えば正式リリースして今までちょうど1週間くらい(2008年12月4日収録)なんですが、その間にはてなアイデアに登録されたアイデアを100個以上実装済みにしたんですよ。もし既存のコードベースのまま、僕一人でチームを作らずにやっていたら、絶対無理だと思います。新しいコードをベースに作り直して、かつそのプロセスの中に少しずつチームビルディングを加えて体制を整えてきたおかげで、これから先、やりたいことができる状態までかなり持ってくることができました。スクラッチから書かなかったら次のフェーズには行けなかったという感じがします。

jkondo
今は作る力が100倍くらい?

naoya
そうですね。実際そうだと思いますよ。

jkondo
じゃあ、今までよりも100倍のペースで新機能が……(笑)

naoya
100倍って相当速いですよ(笑)。まあ10倍くらいかな。

ブックマークが、伊藤さん一人の「作品」ではなくなってきたということですね。
これから、この会社には、すぐれたプログラマーやデザイナーが入社してくるでしょう。そういえば、採用担当も、採用をどんどんするとか、
どこかの日記で書いていましたね。
そして、伊藤さんに続く、優秀なスタッフが、どんどんブックマークを改良していく体制が、整ってきたということですね。

はてなの社長
チーム内での、メンバーの役割分担を教えてください。

naoya
僕がディレクションを担当して、全体の方向性を決めたり、開発のマネジメントやスケジューリングをして、指示を出しています。僕もコードは書くんですが、書く時間は1日の中で1/3くらいしか使っていません。一方で、それぞれのメンバーには100%開発に集中してもらっています。

伊藤さん、マネージャー職になっています。
プログラマー集団の仕事がどうやって進んでいくかがわかります。

jkondo
開発のスタイルとして、プログラムをまず書いてインターフェースをのせるというエンジニア主導のやり方をしていると思いますが、それについてはどう思っていますか?
naoya
メリットとデメリット、もちろん両方あります。メリットの1つとして、技術者の視点じゃないとできないサービスになっていると思っています。そこがITやコンピュータを得意とする人たちが集まるコミュニティにつながっている気がします。エンジニアリングが分からない人が普通にサービスを作ったら、検索やテキスト分類のようなものは出てこないと思うんですが、そういうことができているという利点はありますね。あと、別のチームのデザイナーのid:tikedaから「はてなブックマークのデザインは他のサービスに比べてかなり動きがある」と言われたんですが、何をするにも最初に動きから考えるので、確かにそれはそうだろうなと思います。デメリットは、開発が中心になるのでどうしてもエッジの効いたサービスになりがちというか、ほんわかやわらかほがらかゆるふわみたいな感じにはなかなかならない。

サイバーエージェントと、株式会社はてなの違いが、とてもよく出ているように思う。
ほんわかやわらかほがらかの路線を一番見事に走っているのが、サイバーエージェントなんじゃないかと思う。
会社を動かしている人のキャラの違いというしかない。
この違いがあるから、このブログもはてなを選んだ。

続いて、Geekと、一般のユーザの境目についての面白い発言が、伊藤さんよりあります。

一般的な認識として、エンジニアリングができる人はエンジニアの気持ちにしかなれないから、ITリテラシーがそんなに高くない人向けのインターフェースは作れないという先入観ってありますよね。僕はそうじゃないと思っています。必ずしもエンジニアリング中心のチームだからといって、使いにくいものしか作れないということはないと思うんですよ。ちゃんと能力がある人がものを組み立てると、どうすればどんなふうに動くかを最後まで知っているので、むしろエンジニアリングのことがわからない人向けに使いやすいものを作れる、そういうことを追求していきたいんですね。

そうだ。そうだ。同意します。

ブックマークのプロジェクトで私が注目していたのはPFIとの提携。

jkondo
検索エンジンを作るというと、webサービスの会社にとっては1つ壁を越える感じがあると思いますが、今回はてなが初めてオリジナルの検索エンジンを作ったことについてはどう思っていますか?
naoya
コアの部分はPFIさんの製品なんですが、自分たちで周辺のものを全部作っているので、一緒に作ったという感じはすごく強いです。検索エンジンができたのは、テキストを扱う会社として本当に体力がついてよかったなと思っています。検索のアルゴリズムやその他にも応用できることが、あの世界にはぎゅっと詰まってるんですよ。そこに徐々に僕たちもリーチし始めているというのは大きい期待感につながっている気がします。

組織の中で仕事をしていくということについて。
積極的な面が出ています。株式会社はてなのとって、このプロジェクトがとても実りの多いものだったのだなと思います。
以下、長いですが、引用します。
チームワークについて。

jkondo
偶然で決まっていくものもあるんですね。
naoya
今回のリニューアルは、ほとんど全部が偶然なんですよ。当然検索もしたいし、テキストの分類もしたいし、本文もちゃんと見せたいし、と最初はいろいろ考えたんですが、具体的にそれをどうやって実現するかは全くノープランで開始していて。
jkondo
しかも一人でやると思っていたと。
naoya
作っている間に何か思いつけばいいなぁ、くらいの感じでした。そしたらPFIさんとの提携が始まって、id:suzakがアルバイトで入ってきて、テキストの分類ができるようになって。最初はチームにいなかったid:secondlifeが入ってきてインターフェースを作ってくれて、というように、いろんなことが全部偶然でくっついてようやくリリースできた感じです。なんというか、あまり自分の力で全部そういう方向に持っていったという気がしないんですよ。不思議なサービスです。
jkondo
意志があるところに道が開けるということはありますよね。
naoya
やりたいことがはっきりしていたからその方針をすぐとれたというのは、もちろんあると思います。
jkondo
出てきたチャンスを最大限生かせたのは、グランドデザインやこうやりたいというイメージがあったからですね。
naoya
今まであまりそういうものの作り方をしてきたことがなくて。自分の引き出し以上のものを先に考えるより、引き出しにあるものを組み合わせて何か作ることをずっとやっていたのでかなり不安だったんですけど、やれば何とかなるんだなってちょっと思いました(笑)
jkondo
運も実力っていいますよね。