ベル研 AT&Tの頭脳集団―その研究開発力の源泉を探る

ベル研 AT&Tの頭脳集団―その研究開発力の源泉を探る


2013年1月15日 追記
何がベル研を特別たらしめたのか? - himaginaryの日記
ここで取り上げられている故人が所属していた研究所の
内情がインタビューによって書かれております。
ここの研究成果はとても有名なものが多い。
グラハム・ベルという電話を研究開発した人が
設立した会社がそのまま全米で一番大きい電話会社に
なった。日本でいうところの、昔の電電公社
NTTか。
電話を、アメリカ国内の居住者すべてが使えるように
しようと思ったら、それは大変な事業になるということ。
少なくとも、各家庭にまで通話が可能になるように
「電線」をひかないといけない。
クリアな音質で電話ができる「通信技術」が必要に
なる。すこしでも安く、「クリア」にコミュニケーションが
楽しめるようにする必要がある。
というようにさらっと書いたところだけでも様々な
技術が必要になってくる。
電線として、使用に耐えうる素材をどうやって開発するのかとか。
全米に張り巡らされた電線(回線)のネットワークをどの
ように効率よく使用できるのかどうかを理解するために
計算が必要になったりとか。(だから数学者も動員されてくる。)
このように解決する必要がある技術的問題がたくさんあったのでベルの会社は大学などから、優秀なエンジニア(博士号取得者、修士取得者)をたくさん
採用して、これらの問題に対処する方策を練り続ける。

ベルの会社は独占的利益を享受できる立場だったからお金に余裕があった。そのお金によって運営されていたベルの会社の
AT&Tの研究所、通称ベル研が、いわゆる「基礎研究」
すぐに、事業化して収益に結びつくことはないけれど
長期的には、新しい産業を生み出してしまうような
大きな発見につながる「かもしれない」というような成果
を生み出すのに貢献してきたという。
おそらく、この本が出版されている頃にはよく話題に
なっていたのだと思う。翻訳されたのは20年くらい前かな。
この本が執筆されたのはそれより数年前という感じ。
この本はベル研に立ち入りを認められたバーンスタインという
人が、研究員の人に長大なアンケートを実施してまとめ上げる
ことで出来上がったようです。
最近亡くなったデニスリッチーという人のインタビューも
掲載されているといいなと思ったのですが、残念ながら
名前だけはあったものの、本人の「肉声」の記録はなし。
そのかわり、デニスリッチーと、UNIXOSの共同開発を
したKenThompsonという人は出てくる。
どうやら、コンピュータにチェスを覚えされて、人間に
勝負を挑ませるということをしていたらしく、この本の
執筆者がベル研内で、この人と一緒にコンピュータチェスゲームをやり込んでいるという部分があった。
ほかにも、コンピュータに人間の言語を扱わせる研究
なども出てくる。
最近、SiriというAIがもてはやされるようになったけど。
こういう「商品」の源流になるような技術の研究というのは
はるかに前からプロによる研究が進んでいるということが
わかる。コンピュータによって英語の文法の理解、英文の
理解がどこまで出来るかとか。
これも最近よく話題になる「機械翻訳」の走りか。

でも、どうやら読んでいて、「経済的成功」が約束
されていた場所には見えなかった。
なんというか、生まれつきなにかをもって生まれてきて
しまった人が、集まって
わかりづらいことをしているみたいなそんなイメージでしょうか。
この研究所、親会社が独占禁止法の適用を受けて
分割されたのとセットにして、分割されたみたいです。
この事実の経緯だけでもかなり複雑怪奇みたいなのですが。
「自由競争」が本当に「イノベーション」を生むのかどうか
という最近、よく話題になっていることの一つのモデルケース
だったのかな。
この本で取り上げられている話題の一つ一つがあまりに
密度が濃すぎて、どのように書いたらいいのかよく
わからない部分があります。
ヨーロッパで発達した量子力学の研究の取り入れるために
研究所の人たちが、量子力学の教科書を輸入して読書会を
やったり、研究所のメンバーがヨーロッパの大学で勉強を
したり、国境を越えて、研究が進められているところとか
秀逸です。
そう、量子力学とかはまずヨーロッパの大学研究者
ありきだったんだなという、かなり基本的なところで
あらためて、感じ入ったり。
研究員一人、一人のプロフィルが丁寧に出てくるところなども
興味深い。
やはり子供の頃から、数学や物理学のような分野が
好きだったみたいな人が多い。
日本でもこの分野が強い人は、色々と違うことしている
場合が多い。
たしか、大手の予備校などでも囲いこんでいるのでは
ないかな。
思い出すことをランダムに書いてみるが。
そう、シリコンという物質の研究などもここはかなり
やりこんでいたみたいで。
Shockrayとか、Braddinといった聞いたことのある人も
出てくる。
シリコンバレーという場所が、ハイテク企業のメッカみたいに
なったオリジンにも関係しているようで。
ここも、調べだしたら、終わりがないところだと思う。
ドイツかポーランド出身のユダヤ人研究者というのも最後に
出てきた。
不幸にもヒトラーが政権を握っている時に、欧州にいたもの
だから、思いっきりユダヤ人迫害の標的になる。
命からがらアメリカに亡命。
その研究者の父親は英語が出来ないために就職苦労する。
その息子である研究者も幼少の時は英語で苦労したらしい。
彼が進学した大学で英語がどれくらい理解できるかで
クラス分けがされているという記述なども出てきた。
日本の大学しか知らないと、まさか大学で講義が実施される
言語を巡って、いろいろとハードルというか、ドラマが
あるなんてことはどうもピンとこないけど。
などど、考えていたら、最近の高校生用の模擬試験の
英語の試験問題でそんな話題が長文読解のトピックに
なっていた。プエルトリコ生まれの筆者が、ヒスパニックで
あることを理由に、英語を中心として、学校で微妙な
差別的取り扱いを受けていたときのトラウマのような
ものを書き綴っていた。
今でも、問題になっていることなのだと思う。
このベル研について読んでいると、こういう日本人
ビジネスマンの記述もとても興味深い。
奥行きが見えてくるような気がする。
まあ、自由とイノベーションと公開性が大事だといっても
学歴によるスクリーニングが決定的なのだなということを
再確認するだけかもしれませんが。
柴田尚樹 シリコンバレー起業日記 - ブログ : 日経Bizアカデミー

私がこの地で暮らし、起業した中で一番強く感じるのは、「シリコンバレーの成功要因はアメリカの移民政策そのものにある」という点です。明示的には経済特区にはなっていませんが、ある意味、起業を促進する経済特区のようなものだと考えれば理解しやすいと思います。
アメリカは、国の成り立ちからして、世界中で最も移民に寛容な国であると言えるでしょう。中でも、シリコンバレーは「才能がある外国人・移民」に対して、とても寛容です。野球のメジャーリーグを思い浮かべてください。肌の色も出身国もバラバラで、厳しい競争にさらされた契約社会で、少しでも結果が出ないとすぐクビになる一方で、成功すれば非常に多くの富が得られます。メジャーリーグの起業版がシリコンバレーです。
シリコンバレーは世界中の才能を「輸入」しています。非常に多くの移民がトップ大学に通い、その後、起業家として活躍しています。実際にスタンフォード大学のコンピューター・サイエンスの修士課程の講義を覗いてみると、(人種や見た目で差別する意図は全くありませんが)約半数がインド系、次の多いのが中国系、白人系(コケイジアン)はその次です。これはあくまでも「見た目」であって、実際には2世、3世の人もいますが、日本という非常に均質な国で育った私にとっては、どこの国の大学なのか、良くわからないほどでした。Apple本社があるCupertino市では、40%以上の世帯が家庭内での共通言語が英語以外であるという調査結果も出ているくらいです。そして、何よりすごいのは、我々外国人であっても、才能があると見なされれば、非常に暖かく迎えられることです。それもビジネス関係者だけでなく、一般社会においても。

というように書かれているわけですが。
今回、日本人研究者からこのように米国の投資家からの支援を
うけることに成功した起業家が出たということで。
もちろん彼はスタンフォード大学で研究員というポストも
もっていたようですが。
アメリカでの就職と、学歴形成のプロセスの最適化に
ついて、どのように考えたらいいのかということについても
一定の示唆が出たのではないかと思われます。
まず、どこの大学を出たのかよりも、大学で何を学んだのか
ということのような大きく響いたのではないかという
こと。どうしても米国の大学のコストは高くつくように
思います。だったら東京大学で学費を抑えたほうがいいのかも
しれませんと。
と、ちょっと脱線にもなって色々と書いてみたわけですが。
最後にベル研とGoogleについて。
別に何かややこしいことをいうのではなく。
この二つの組織は似ているなと。すでに数十年も前に
Googleと似たような組織があったんだなと。そういう風に
思いました。
潤沢な資金をもっているから、余裕があると。
それをバックにして(もちろん企業理念もありますが。)
全米から優秀な理工系の頭脳を集める。
多少は採算度外視なことも、「長期的観点」にたって、
彼らに事業開発をどんどん任せる。
「事業採算」という規律がないことへの危険性は
「厳格な採用基準」というもので、働いている人の
「自己規律」でカバーしているようなそんな印象も受けます。
いや、これはおかしい、だってGoogleにはライバルがいるか。
GoogleGears、GoogleBuzz,などなど。
すでに、Googleが開始して、うまいこといかなかったプロジェクトもいくつか登場している。
でもこれからも、「当たるかもしれない」何かに向けて
ばんばんリソースを使うのだと思います。
もちろん、Googleだって、Yahoo だったり、Appleだったり、Amazonだったりとライバルがいる中で、いろいろと
検索の次になるものを探しているのでしょう。
そうか。Googleというのは自由競争という熾烈な環境の
中で、「自由と開放」が確保されている中で
「自然発生的」に登場したベル研なのかと。
だとしたら、そのポテンシャルはどのように考えたら
いいのか。
でもこころなしか、ベル研にはあって、Googleにはないもの
というものもことここに至ると見えてくるような気もする。
Googeが世に出すものは、明らかに「競合他社」を意識
したとしか思えないものばかり。
本当にベル研のように「これって、資金をいれて何のメリットになるのか?」というギリギリのラインにはやはり
足を踏み込んではいないのだと思う。かくも「事業採算」の
規律は厳しい。
でもたしかGoogleには、冒頭に挙げたKenThompsonなんかも
在籍している。
そう人事面でも連続しているんだよなと。
Establishmentってそういうことなんだよな。

追記
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