今日から使える熱力学 (今日から使えるシリーズ)

今日から使える熱力学 (今日から使えるシリーズ)

「高校数学でわかるボルツマンの原理」 書評 - book-loverの日記
前回のエントリーでご紹介しました竹内先生の本とジャンルはかぶります。
竹内先生は、今回紹介するテキストよりも、少ないページ数で、「統計力学」のさわりまで
やるというウルトラCをやりました。
今回のテキストは、分量がたっぷりとしている(紙が大きい)にもかかわらず、「謙虚」に
「熱力学」の範囲に限定して執筆されております。
ということは、いずれ、このシリーズで「今日から使える統計力学」が出版される日があるのかも
しれません。

「数学が嫌いな子供が多いのはなぜか?」

式を立てて、計算して、答えを出した結果、実用的なメリットがあるということを実感できているのかどうかが
問題かなと、思います。
答えを出すことができたら、それが仕事になりますよと。
しかし、自立するためには、お金がいる。お金を稼ぐには、ビジネス・スキルが必要ですという
ことを、小さな子供にどれだけ言って聞かせても、聞く耳を持つかといったら、あまり期待できない。
今回、紹介するテキストでは、より「熱力学」のジャンルにそって、大学レベルの「方程式の解法」の紹介が
丁寧にされています。
実務は、もっと大変でしょうが、「対価」がもらえる「方程式を解く作業」というものがどういうものかは
その片鱗をみることができる。

2008-06-26 - book-loverの日記
底辺からみたカルテク 4P

そこで問題は、自分が平均より下だと気がついたときにどうするかです。2つの可能性があります。まず、一つはむずかしくてたえられないからもうここからでることにしよう。これは感情的な問題ですね。一方、理性を働かせて、僕がいま君たちに指摘したようなことを自分自身にいいきかせることもできます。すなわち、ここにいるもののうち半数は本当はトップクラスであるにもかかわらず平均以下である。ということは別にどうでもいいではないか、というような具合にです。そしてこの無意味な奇妙な感じを4年間こらえて、君たちが一般社会へもどってみると、世の中はむかしとかわらないのです。たとえば、どこかでに就職したとしよう。そうすると、君たちはまた「1番」です。工場においてはみんながなにかあると君らのところへとんでくるという、優秀な人間としての優越感を覚えることになる。たとえば、かれらがインチ単位をセンチメートル単位に換算できないようなときにです!これは本当のことです。産業界へいった人、あるいは物理学で高い評判を得ていないような小さな学校へいった人はたとえここでクラスの下のほうの3分の1、5文の1の中にいたにしても、やたらに、がんばろうとさえしなければ、(それについてはすぐあとで説明する。)自分が世の中から強く望まれている人間であるとやがてわかるようになります。その人はしあわせにも「第一人者」として、もとの世界へもどれるのです。

序章 天才の系譜:熱力学ことはじめ
第1章 熱い冷たいの科学:古代エジプトから17世紀まで
温度計の発展史 古代エジプトから17世紀まで
殺人事件の解決にも貢献する熱力学0法則
人はどれだけ温度に敏感か?

温度計というものが、人間の生活の上で求められていたと。
でもって、「熱」を計算しようという発想が、「温度計」の開発を
通じて、発展すると。

第2章 期待を込めて気体を膨張させよう!時代は18世紀へ
こうして現在の温度計が作られた
空とぶシャルルセンセイが発見したもの
科学はこのように進化する 理想気体
超ベンリ! 理想気体の状態方程式をつかってみよう
理想のかなたの現実世界 ファン・デル・ワールス方程式

こういったところの叙述は、前回に紹介した竹内先生の著作のほうが
鮮やかに描かれていると思います。

第3章 スパイ大作戦:熱と温度と007の関係は?
熱素説の興亡 すごいぞ ラムフォード
保冷剤の物理と比熱

wikipedia:ベンジャミン・トンプソン

ベンジャミン・トンプソン、ランフォード伯(Benjamin Thompson、Count Rumford、ドイツ語表記:Reichsgraf von Rumford、1753年3月26日 - 1814年8月21日)はイギリス植民地時代のアメリカに生まれた科学者である。大砲の砲身の中をえぐる工程で大量に発生続ける摩擦熱がカロリック(熱素)説では説明しきれないことを示しカロリック説を否定して、熱力学に先駆的な業績をあげたことで知られる。

「通説」として流布している学説に疑いを持つ。

「通説」の妥当性に対する反証になる証拠を入手するための実験を考案する。

考案した「実験」を実行に移す

「実験」結果より、「通説」にとってかわる、新しい「仮説」を提出する。

自然科学の世界でのアウトプットというのは、こういう流れになっていると思いますが。
なんだか、そのサイクルがとても鮮やかにみてとれたような気がしました。

第4章 暴れん坊を制する至高の法則:熱力学第1法則へ
本が読めるのも太陽のおかげ? 熱力学第一法則へ
熱の本当の正体は? 気体の分子運動論

竹内先生の本では、かなり後になって出てくる証明がここでははやめに
登場します。
理想気体の状態方程式と、ニュートン力学で学習する方程式をセットで使おうということになって
きます。
理想気体の状態方程式の変数には「圧力」Pというものが出てくる。
そして、圧力は、ニュートン力学で登場する力Fを、面積で割ったものです。
ということは、ここで、状態方程式のPに、ニュートン力学の方程式を組み込むことができる。
この数学的テクニックによって、温度が上昇するという現象が、気体の「運動エネルギー」の増加
というニュートン力学の方程式で説明される言葉と等価になる。

第5章 熱力学の胎動:歴史的瞬間が頻発した18世紀
押してもダメならニューコメン
ワットのひらめきと蒸気機関
手抜きの方法
理想的でないところが面白い

Not Found | 新興出版社啓林館
wikipedia:ジェームズ・ワット

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高校数学でわかるボルツマンの原理―熱力学と統計力学を理解しよう (ブルーバックス)

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52ページ

蒸気機関の原型は、1712年にイギリスのニューコメン(1664~1729)が開発したもので、炭鉱の排水用
して広く使われました。読者の方には炭鉱といってもなじみがないかもしれませんが、日本でも1960年代までは北海道や九州に多くの炭鉱が存在し、自己も少なくありませんでした。坑(石炭を掘り出すために彫った孔)内は落盤やガスによる酸欠、さらには炭塵爆発(石炭の細かいくずが爆発するもの)などの危険がありましたが、中でも地下水よる浸水が大きな問題でした。より多くの石炭を求めて、坑はどんどん深くなっていきます。そして、ふかくなるほど出水量は増えていきます。ポンプを作動させておかないと、坑は水没してしまうのです。

仮説の構築→仮説の実証のための実験の考案→実験の実施→仮説の妥当性の確認
テクノロジーが生まれる時代背景がどういったものかがわかります。

第6章 理想の人の七変化:地球を守る秘訣を探そう!
のれんに腕押し 真空を必殺斬り
2種類の比熱 第一法則をつかいこなすともらえるプレゼント
フェーン現象の正体は?

等積比熱 等圧比熱
気象の現象を物理学で習う方程式への数値の当てはめで説明できるようになったら
一人前でしょ?きっと。
なんとなく、そんなことができるようになるような気がしてくる。
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第7章 等圧変化ののぞき窓:エンタルピー
謎の強敵? エンタルピー
こんなとき便りになるよエンタルピー 等圧世界の支配者
これでもか、便りになるよエンタルピー 細孔栓の実験

「細孔栓の実験」この著書を読んでいる限り、この実験が
どういう実験だったのかがよくわかりませんでした。
結局、ふたつのピストンはつながっているの?
空気の移動は、壁をこえるの?
とか、こういったところを、インターネット動画でフォローできたら
大学教養課程の物理学の普及にもいいと思います。

第8章 点火された導火線:永久と理想のはざまにて
できるかな? 永久機関への挑戦
理想は高くどこまでも
基本中の基本 可逆と不可逆
熱きこと水の如し カルノーサイクル
カルノー帰還の効率を求めよう

この教科書のクライマックスなのではないかと思います。
カルノーサイクルのカルノーさん登場です。
ようやく、PV図をみても、拒絶反応がおきなくなってきました。
「等温曲線」という言葉でひっかかっていました。
PV図で出てくる曲線は、暗黙のうちに、温度を一定にしているという部分を
見落としていました。それがわかると、しっくりきます。

wikipedia:ニコラ・レオナール・サディ・カルノー

カルノー・熱機関の研究

カルノー・熱機関の研究

学習のポイントとしては、カルノーサイクルの4段階における、
熱力学第1法則方程式の当てはめが丁寧にされているところを、しっかり理解することです。
(だと思います。)
中学や高校で学習する1次方程式や2次方程式も、決まりきったパターンがあって、練習問題を
つみながら、式の立て方をマスターします。
それと、同じだと思います。
中学と高校で違うのは、「解」が、「数値」にとどまらず、「関数」にもなるというところ。
移項や、等式変形のテクニックにとどまらず、ここで「微分」「積分」という計算テクニックの習熟が
要請される。

第9章 熱力学の分水嶺:エントロピーと熱力学第2法則
熱とちがってすぐわかるエントロピー 超美女の運命を予測
パワー炸裂! エントロピーでみる熱機関
何事もキホン キホン過程のエントロピー変化
女性のあこがれ? カルノーサイクル
パワー全開! 熱力学第2法則の確立
ぴんときにくい第2法則をぴんと来させる絶好例
エントロピー増大即と熱力学第3法則

エントロピーは、すこしわかるようになってきたかな。
熱量には比例するけど。温度には反比例するということを
しっかりおさえておきたい。

第10章 もっと自由を!ガソリンエンジンの歴史としくみ
人類に自由を与えた自動車の歴史
自動車の心臓部の熱力学

自動車のエンジンの仕掛けはいまひとつ、わかりにくいです。
エンジンのイラストから、4サイクルの過程が、どうやってシャフトの回転に
なっていくのかが、ピンとこない。
いずれは、こういった本が、YouTUBEニコニコ動画での動画教材と連動してくれることを
祈ります。
いずれそういう時代がくるよねきっと。
筆者が、自分の書いた教科書について最期まで責任をもつために、テキストについて
補足説明をする日が必ず来ると思います。
そういうことのコーディネータとかが仕事になったらいいなとか。思います。

第11章 よみがえる古代エネルギー:火力発電の舞台裏
もう1人の天才と今なお大活躍の蒸気機関
上記の性質と火力発電の中心
忘れがちな幸せ ランキンサイクルと火力発電所

カルノーサイクルを皮切りにして、PV図がしっかり読めてくると
なんとなく仕組みがわかってくる。
発電所のイラスト、熱源とピストンの簡略な図、PV図の対応がわかってくると
仕掛けが見えてくる。何度も、過程の一つ一つを読み解くために、ページを
いったりきたりするのが大事。

第12章 役に立つエネルギーとテコでも動かぬエネルギー
知らなきゃソンソン
どっちがどっち?「ガッツ太し」
微分形はこんなにベンリ

ヘルムホルツ自由エネルギー ギッブス自由エネルギーという概念の
数学上の定義。説明。
実は、あまりよくわからない。

本書 72ページ
案外、こういった記述が学習の見通しを立てるのに有効なのではないかと思ったりする。

括弧は、数理物理学の学習を進めるにあたって、理解をよりクリアにするために、ブログの
筆者が加えました。

超かんたんエンジン内部の期待を思い浮かべましょう。この気体には圧力P 体積V 温度Tがあることはすでに述べました。ピストンを動かすと、それらの巨視的な量がどう変化するかは、熱力学(の教科書に書いてある方程式)で説明(計算)できます。しかし、気体分子の速度やエネルギーがどのように分布しているか、それら微視的な量の平均値は何か、などは熱力学(の教科書に書いてる方程式)ではわかりません(計算できません。)。「統計力学」(の教科書に書いてる方程式)が必要です。
ではピストンの速さが音速に近づくとどうなるでしょう。気体の一様性が破れ、渦や対流が発生し、さらに高速では衝撃はも作られます。そうなると、分子の速度にはランダムな熱運動に加えて、並進運動が生まれ、巨視的な流れが現れます。こんなときには、
流体力学(の教科書に書いてある方程式)が必要です。おまけに統計力学(の教科書に書いてある方程式を使った計算)も有用です。さらに、気体分子から発生される電磁波を説明(計算)するには、量子力学(の教科書に書いてある方程式の当てはめを使った計算)の助けが必要です。気体を冷却して、液体や固体に相変化させる場合も同様です。ですから、同じ気体でも熱力学や統計力学流体力学量子力学の各分野で調べられます。各分野(の教科書に勝てある方程式を使った解法)にはそれぞれの得意不得意、つまり守備範囲があるのです。

索引

追記
Tesla Motors | Premium Electric Vehicles
京都大学基礎物理学研究所