理工系教育に対する私見

力学と微分方程式 (数学書房選書)

力学と微分方程式 (数学書房選書)

とある 物理屋 の仕事について - book-loverの日記

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今日から使える微分方程式 - book-loverの日記

学習において、「目的と手段」の対応関係をきっちりつかんでおくというのは
とても大事なことだと思います。
高校2年生になるに際して、私は、なにも迷うことなく、文系選択をしてしまった。
高校1年生のときの、数学の先生が、鬼のように怖かったもので、この先生に会わないですむなら、
はやく文系にいきたいと思っていた。
すでに、高校1年生のころより、法学部にいきたいとおもっていたということもあったと
思う。
高校3年生で習うことになっている微分積分やら、統計解析に関する単元が、
理工系の大学でどういった学習につながるのかといったことには、まったく意識が
いかなかった。
医学部を志望して、理系選択する学生が、有数に多かった学校に在籍していたのにも
かかわらず、私は、理系数学の道を、自ら絶っていた。
家庭教師になって、この選択の漬けにとことん苦しむことになる。
子供の教育のためには、かなりのお金をつめる家庭が、ことごとく、理科・算数・数学の
エキスパートを望んでいるという現実の前に、
文系キャリアは、絶望的なものとなった。
それでも、仕事は、みつかってしまうのが不思議なものだけど。
「先生」という単語は、「先に生きる」という意味からきているのだろうか。
「先に生きる」ということを、通過した人間が、後に続く人間に、一番まともに提供できるTIPSといったら、
「こうしておけばよかった」
という転ばない先の杖を提供することだろう。
今の日本の教育システムで文系選択をするというのは、事実上、学歴の形成を
高校でストップすることと等しい。
別に、大学のキャンパスという施設を利用するという対価を払わなくても、
本を読んでおしまいになることに、ばかばかしく授業料を、使ってしまうことになるだけ。
しかも、文系の学部で、「教員」を勤める研究者もまた、己の研究者としてのキャリアを
スタートさせる前の学歴編纂の過程で、「理系」の学習をストップしている蓋然性が
高い。
そこで、ストップした人間の思考のパラダイムは、そこでとまる。
自分が消化できる範囲の書籍を、うろうろして、Publishするだけとなる。
そんな人間の学習指導をうけた学生の進化も「止まってしまう」
文系の研究者というのは、一歩、大学の外を出たら、
「本屋の店員」と同じスペックしかもてない。
アルバイトとして募集されている書店で、本棚をつめているだけのジョブになる。
文系は、大学の外では通用しない職能になる。
圧倒的多数の学生にとって、大学は、職場の選択にはならない。
だったら、大学もそれにあわせたカリキュラムを編成したらいいのだが、そうはなっていない。
文系の選択をするということは、
「自分のパラダイムの中で、解析できない領域を放置しておく」
ということになる。
私が、理解する限り、
医者は、弁護士のやる内容を100%理解できる。
しかし、弁護士は、医者のやっている業務内容を結局は、理解できないのではないかと思う。
そんな二人が、共同作業をしたら、どちらが、イニシアティブをとるかは、火を見るよりも
明らかだ。
トヨタで、エンジンを作っている人間が、知的財産権が得意な弁護士と弁理士を理解するのは、
可能だと思う。
しかし、その逆は、ほぼ絶望的だろう。
なぜなら、多くの文系選択職業人には、高等数学をトレーニングした期間が、抜けているからだ。


おそらく今、就学中の生徒の多くも、数学と物理が、なぜ、学科として指定されているかの
意味をわかっていないだろう。
親が、メーカの技術者だったり、お医者さんだったりしなければ、おそらくわからないだろう。
私がそうだったからだ。
Blogというメディアを考える。
長く、エントリーの更新を続くことができるかどうかの分かれ目は、
自分の書く内容が、本当にたくさんの人に伝わってほしいという思えるかどうかなのだと思う。
それが、客観的に、妥当な判断であるかどうかは、読者がきめればいい。
少なくとも、私の調べた範囲では。
私の知る限りでは。
就学中の生徒の一人でも多くを、文系選択させないというのが、私が、心のそこから、
伝えたい内容であると思う。
ここで、道を誤ってしまうために、理系選択した人間に、キャリア形成のさまざまな途上で
出し抜かれる危険性を回避することが出来る。
文系が多く、就業するキャリアのほとんどは、理系でもできることだ。
だったら、なおさら、大学で、文系を選択するメリットはない。

ベンチャーキャピタルの具体例で考えてみてもいい。
文系出身のキャピタリストは、プログラマソースコードを読むことは出来ない。
プログラマは、キャピタリストが、何を投資の判断基準にしているかを、たちどころに学習できるはずだ。
そこらの書籍を買ってきて、「ざっくりわかるファイナンスの学習」をすれば終わりだ。

ここまで書いていて、では、文系が、理系の業務内容を理解するための、独学の
やり方は、はたして、本当にないのかどうかということになるが。
その問題意識があるから、私は、あえて、読書の範囲を理系の研究者が表したものに
限定した。
自分の中では、越えられないと思う壁を、突破できるかどうかという意識がある。
Web進化論と、Googleと、仕事で、お会いしたお医者さんが、私にそういう意識を
持たせることになった。

私は、予備校で30年あまり物理学を教えてきました。物理学といっても大学受験のためのもの、通常「受験物理」と言われているもので、そこには
いくつかの制約ー教える側からすればなんとも窮屈な制約ーがあります。たとえば変位に比例した復元力をうけた錘の振動周期を問うというような問題が
大学入試では頻繁に出ていますが、しかし本来それは微分方程式を解かなければわからない事柄なのです。速度に比例した空気抵抗のある中での物体の落下で、
最終的に速度はいくらになるかという比較的ポピュラーな問題も同様です。ところが、大学入試の物理学では微分方程式はおろか、微積分学さえ使わない範囲に
限られています。そもそもが、力学の原理としての運動方程式が、紛れもなく、微分方程式であることをかんがみれば、これがいかに不自然な制約であるかは
あらためて、強調するまでもないでしょう。

もちろん「数学を知らないからその範囲で」というのであれば、それはそれでやむをえないとして了解することも可能です。
しかし同じ大学入試でも数学では、少なくとも、理科系の学部では、初等的にせよ、解析学が課せられているのであり、多くの受験生は微積分の計算にそれなりに
習熟しているはずだと思われます。

実際、数学の先生への質問やそれに対する数学の先生からの説明などを横できいていると、やれ置換積分がどうであるとか、部分積分を使えば、うまくゆくだとかが
語られていて、結構レベルの高いことも教えられているようです。入学試験の数学の問題にも、かなり込み入った計算の要求されるものが実際に出されます。
にもかかわらず、それが物理学にまったくと言っていいほど生かされていません。実際、力学の説明でほんの少し初等的な微分演算や積分計算を使えば、それだけで受け付けない
諸君が少なくありません。

高等学校や大学の教養課程ではすくなくとも理系の進学希望者や理科系の学部では、ほとんど100パーセントの諸君が数学を選択していると思います。
しかしそのなかで、将来数学者になるのはきわめて少数で、大部分の諸君は数学を道具として使用する立場になるでしょう。にもかかわらずかなりの時間をかけて学習している
数学が自然科学や工学に使えないのでは、いったいなんのためなのかと言いたくなります。
やはり、現実のさまざまな学問に使用されている道具としての数学の側面を初期の段階から数学教育に取り入れ、
そのようなものとしての数学になじませることが重要なのではないでしょうか。解析学を学んでいるはずの諸君がごく初等的な微積分計算を物理学で使用したらそれだけで
拒絶反応を起こすというのは、やはりその学習に欠陥があるといわざるをえないでしょう。

逆のこともいえます。もともと微積分微分方程式は具体的な問題を解くための手段として生み出され、発展してきたのであり、それゆえ、ときには物理学工学の問題にそくて語るほうが、数学そのものの理解と学習にとっても
有効だと思われます。速度や加速度の概念は、本来的に瞬間的変化率として考えだされたものであり、それこそが、微分方の出発点であったといえるでしょう。

「自然という書物は、数学の言葉で書かれている」

といった17世紀のガリレオ・ガリレイ以来、数学と力学は手をたずさえて発展してきたのです。それどころか、多くの場面で、力学は数学に先行し、数学とりわけ解析学
先導してきたのです。



目次

第1章 運動の記述と微積分入門

1−1 速度の定義と導関数
1−2 速度から位置を求める 区分求積法
1−3 加速度の導入

第2章 微分法と積分法の一般的な話

2−1 微分
 2−1−1 微分法の諸定理
 2−1−2 導関数と関数の増減
 2−1−3 微分法の諸公式

2−2 べき関数 指数関数 対数関数 三角関数
2−3 定積分と不定積分

第3章 力学と微分方程式入門

3−1 運動方程式とその積分形(1次元の場合)
3−2 地表での物体の落下運動
3−3 微分方程式との出会い
3−4 仕事とエネルギー
3−5 保存力とエネルギー積分
3−6 相空間上での記述

第4章 調和振動 減衰振動 強制振動

4−1 調和振動の方程式とその解
4−2 不動点とその近傍の運動
4−3 減衰振動
4−4 テーラー展開とオイラーの公式
4−5 強制振動

第5章 2次元 3次元の運動
5−1 ベクトルの導入
5−2 速度と加速度 2次元 3次元への拡張
5−3 偏微分と方向微分
5−4 力学原理
  5−4−1 運動の第一法則 第2法則
  5−4−2 運動の第3法則と運動量の保存
  5−4−3 仕事と位置エネルギー
5−5 円運動
  5−5−1 円運動の方程式
  5−5−2 見かけの力としての「遠心力」
  5−5−3 鉛直面内の円運動
  5−5−4 相空間(θ、θ)の記述
5−6 回転する円周にそった運動
5−7 電磁場中での荷電粒子の運動
  5−7−1 一様な磁場中の運動
  5−7−2 直交する電場と磁場の中での運動

第6章 ケプラー運動と等方調和振動

6−1 中心力のもとでの運動
  6−1−1 角運動量とエネルギー保存則
  6−1−2 2次元極座標の導入
6−2 2次元等方調和振動
6−3 ケプラー運動
6−4 双曲線軌道について
6−5 2次元等方調和振動とケプラー運動をめぐる不思議な物語