これからも、フォローすることになるのかな。

「自分の力と時代の力」講演録(JTPAシリコンバレー・カンファレンス2009年3月21日) - My Life Between Silicon Valley and Japan

何でも必ずステップ・バイ・ステップです。そう簡単に、いきなり一足飛びに、自分の持つイメージのところに行けるということはありません。ゴールになるイメージがどこかにあって、一歩一歩、一つ一つ自分がその時点でできることをやっていく、ということ以外にはないのです。

そして若い人にとっては、やはり、上の世代の人が全く分からない最先端の知を手にするということが、長くサバイバルするためのカギだと思います。今、シリコンバレーでも元気のいい人と、不安の中で生きている人がいるけれど、元気のいい人はどういう人かというと、まだ海のものとも山のものともわからない、たとえばITとバイオロジーの世界の接点とか、ITと脳科学の接点とか、すぐにはベンチャーキャピタルもファンディングできないほど先端の分野を究めようとしている人たちです。そういう領域の研究をやっている、そういう領域を一生懸命勉強している人は、世界経済がどういう状態かなんて関係なく、自分の世界が面白いからそこでがんがんやっている。

(5) いまこそ自分に投資を

最後になりますが、もし皆さんが20代前半だったら、留学することをお勧めします。これからの時代は、とくに学問の世界では、英語で何かを書かなければ存在しないのと同じだし、インターネット空間も、英語圏は圧倒的な進化を遂げているけれど、日本語圏はそうでもないとか、いろんなことがあります。

ビジネスでも、グローバルな展開を考えなくては面白いことはそうはない。日本で起業するのでも、日本を向いてビジネスをしているだけでは大きく伸びようがない。スモールビジネスくらいしかできない可能性が強いです。かなり大きなことをしたいと思う人は、必ずグローバルにやらなければいけない時代だと思います。僕らの世代は、まだ日本ローカルなところに根ざして生きのびられた最後の世代だけれども、皆さんはそうではない。だから、少しでも留学ってどうなんだろうと興味を持っていたり、ちょっと無理すれば留学できるくらいの経済的な状況、あるいは自由な環境にいる人は、かなり真剣に留学ということを考えると良いと思います。「シリコンバレーで働く」ということも、留学の延長線上で考えるのが王道でしょう。そして大学や大学院でこそ、「上の世代の人が全く分からない最先端の知」を身につけることができるわけです。

いまは「時代の力」が衰微していますから、こういう時ほど、自分に投資して「自分の力」を高める時なのです。自分に投資をするという時に、インターネットで、全世界の講義が見られます、ユーチューブで見られます、MITのオープンコースウェアがあります、誰とでもコネクションできますと言っても、人間は弱いものだから流されてしまいがちです。だから、留学して、強制されて勉強する環境に身を置く、それも素晴らしい学習環境に身を置くのがやはり良い。

30歳すぎて、40歳すぎて、専門領域である程度自分のプレゼンスもできて、プライドも生まれ、仕事もあって、勉強しないで仕事すればその分一年にこのくらい稼げる、みたいな状況になったら、なかなかもう一回勉強しに戻るということができません。20代の、まだ失うものが全くないときに、アメリカで勉強するのはとてもいいことです。

アメリカは良いところも悪いところもたくさんあります。滞在中の一週間でも、そういうところをきっと皆さんは目にするでしょう。でも、アメリカで間違いなく良いのは、一流大学と研究機関なんですよ。アメリカの競争力のすべての源泉はそこにあると言ってもいい。だから、2年でもいい、できれば3年、5年留学することを、皆さんの非常に重要な選択肢として考えてほしい、この時代だからこそ、ということを最後に申し上げて、おしまいにしようと思います。ご静聴ありがとうございました。