テレビ「なんでも鑑定団」の構成

絵画やつぼの値段をつけてほしかったり、
つけてもらった値段で売りたい人が登場する。

鑑定の専門家が、もってきた「お宝」の値段を「鑑定」する。

テレビ番組はここでおわる。

株式市場では、「お宝」が「会社の株式」になる。
そういう「お宝」をもってくる人は、「会社の社長」になる。

鑑定をする人は、銀行マンだったり、証券マンだったり、弁護士だったり、会計士だったりする。
視聴者は、「投資家」つまり、「会社の株式」にお金を出せる人

「お宝」に「値段」をつけて終わらないのが、株式市場の世界。

株式市場の世界では、

株式に値段をつける人

株式の値段をあげることができる人

株式を安く買って、高く売りたい人

株式に値段をつけるときの、算定根拠になる数字に、うそが入らないように
チェックする人

といった人たちが登場してくる。

この「株式市場 なんでも鑑定団」が、まとも番組として放送されるように
プロデューサーをやっているのが、
金融庁」だったり「財務省」だったりする。


会社の値段 (ちくま新書)

会社の値段 (ちくま新書)

筆者プロフィール

森生 明 (もりお・あきら)

1959年 大阪府生まれ
京都大学 法学部
ハーバード・ロースクール を卒業

日本興行銀行
米国投資銀行ゴールドマン・サックスにて
M&A(企業買収)アドバイザー業務に従事。

その後米国上場メーカーのアジア事業開発担当副社長
日本企業の経営企画・IR担当を経て 

1999年独立

現在は西村ときわ法律事務所の経営顧問他
数社の経営顧問、M&Aアドバイスをしている。

著書に「MBAバリュエーション」(日経BP社)がある。


とてもすばらしい新書に出会えたと思う。
この本を読む大前提として、
「会社とは、事業形態の選択肢のひとつである」
という商法学研究者の序文を頭にいれると、さらによいよい。



目次 

はじめに

  会社の値段がわかると世の中が見えてくる

→会社の値段=株式時価総額

読み方のTIPSとしては、
「会社の値段」=「会社の株式の値段」という読み替えをすると、はっきりわかる。

会社の値段は下記の式で導出される。


=\frac{C}{r-g}


Cは会社の利益を指し示す
rは、会社の安定性を指し示す 
    数値が大きい=会社が不安定
    数値が小さい=会社が安定
gは、会社の成長性、将来性
    数値が大きい→会社の値段を大きくする
    数値が小さい→会社の値段を小さくする

本書の中の話は、すべて

1 Cが大きくなるのか、小さくなるのか?
2 rが大きくなるのか、小さくなるのか?
3 gが大きくなるのか、小さくなるのか?

よって、本書で「会社の値段」という単語が出てきたら、まずこの公式を
思い浮かべるのが、一番大事。
3つの変数のうち、どの数値が変化する話なのかということを常に意識すること。



本書の話は、すべてこの3つの変数が上下する話です。



第1章 なぜ会社に値段をつけるのか

  • 会社の役割
  • 株式上場もM&Aも中身は同じ
  • 反対者の言い分 その1

会社は安易な金儲けのネタではない

  • 反対者の言い分 その2

バブル長者は勤勉日本人の敵

  • 資本主義とは会社に値段をつけること
  • 株式会社と資本主義の誕生
  • 公開株式市場への発展
  • 会社に値段がつくフェアな社会

ホリエモン発言の真意

ここの話は、お金で売買されると不快になるものを思い浮かべると、興味深く読めます。
私が、考えたのは「文化遺産」「皇居」「赤ん坊」「女性を花嫁にする権利」

  • カネさえあればなんでも手に入る、でいいの?

日本企業によるアメリカ買いの顛末

  • 日本の転換期

会社の値段が重要になる時代の到来


第2章 基本ルールとしての「米国流」

  • 「米国流」がスタンダードな理由
  • 投資価値算定の万国共通ルール
  • 永遠に同じキャッシュを生み続ける金融商品の値段
  • お金の時間価値

現在価値という発想

  • 企業価値算定の原理
  • リスクを数値化する
  • 最低限覚えておくべき公式
  • 株主至上主義の紆余曲折
  • オーナー一族経営の時代
  • 所有と経営の分離
  • 1960年代のM&Aブーム
  • 1980年代以降

株主の逆襲

  • 機関投資家の拡大とコーポレート・ガバナンス
  • 敵対的M&Aとその防衛策の発達
  • 強いアメリカの復活と株主至上主義


第3章 企業価値の実体

  • 会社の持ち主

企業価値にあたる英語はない?

  • 企業価値という言葉にひそむ曖昧さ
  • ニッポン放送の企業価値と株主価値
  • 誰にとっての「価値」なのか
  • すべてのステークホルダーという事なかれ体質
  • 誰が企業価値を創るのか
  • 経営者を選ぶということ


第4章 「会社の値段」で見える日本の社会

ここの話もすこし、トリッキーかもしれません。
今まで、「会社の値段」の話をしているのですが。
実は、この章の話では、
「銀行が、貸出先に対して、もっている債権の値段」が変化することが
問題になっています。

貸し出したお金の回収見込みが悪化する。
「貸し出し債権の値段」が下落する→銀行に損失がでる→銀行のCが減少する。→銀行の会社の値段下落

貸し出したお金を、もう一回現金化する。

「貸し出し債権の値段」の下落がストップ→銀行損失増大ストップ→銀行のCの減少がストップする。→銀行の会社の値段が下げ止まる。

銀行のこのメリットを狙って、ハゲタカファンドと、事業再生ファンドは、資金を用意して
銀行の「債権」を安く買い叩く。
ファンドは、「債権の値段」を上昇させて、転売することで、自己のCを最大化することを狙う。

銀行から、お金を借りている事業会社の視点で、「会社の値段」の公式を考える。

銀行が、借金を割り引いてくれるもしくは、チャラにしてくれる
→返済、利子の支払いが免除もしくは、減免される→Cが上昇する。→事業会社の「会社の値段」上昇

銀行が、自らの会社としての値段を維持したいと思い、貸し出しをしたお金の回収に走ると、
→返済・利子の支払いが、会社の利益Cから、差し引かれていくので、事業会社の「会社の値段」は
どんどん下がっていく。

「会社の値段」の公式からみた事業再生ファンド・ハゲタカファンド

事業会社の「会社の値段」を上昇させることで、自分のもっている「債権の値段」または
株式の転売を狙っていく。

  • 「会社の値段」という共通テーマ
  • 全ては「金余り」からはじまった
  • 高度経済成長の終わりからバブル崩壊へ
  • バブル崩壊から貸し渋りと金融再編
  • 銀行の機能不全からハゲタカファンドの登場へ
  • ハゲタカと事業再生
  • 事業再生と企業スキャンダルのつながり
  • ハゲタカファンドから産業再生機構
  • 事業再生と外人社長
  • 若手企業家の登場とネットバブル

第5章 企業価値算定ー実践編

  • 基本公式をどう使いこなすか
  • 倍率は本質を語る
  • 答えは市場から探す
  • 株価、企業価値と会社の値段の関係
  • 家電メーカー4社の比較
  • 株価をそのまま比較しても意味はない
  • 株式時価総額=会社の値段?
  • 株式時価総額(=株主価値)と企業価値は違う?
  • バランスシートをイメージする
  • 株式時価総額とのれん価値
  • 企業価値にはすべてが織り込まれる
  • キャッシュフロー倍率で比べる
  • EBITDAというスタンダード指標
  • EV
  • EBITDA倍率は経営者の通知表
  • 「客観的に正しい企業価値」はあるのか

第6章 ニュースを読み解く投資家の視点

  • 正しい市場評価の前提
  • 情報開示の重要性
  • 投資家層の厚み
  • 転換社債新株予約権
  • 買収資金は誰のカネ?
  • ベンチャー起業家は本当に稼いでいるのか?
  • 財務優良会社がなぜ狙われる?

「会社の値段」を求めるには、
Cを出す
rを出す
gを出す
という三つの作業が必要。
現金同等物、つまり、現金や、有価証券を溜め込んでいる会社で、「会社の値段」を
求めるとき、
厳密には、Cではないけど、ほとんど、Cと同じものとみていいものがあるから、
Cが、公式どおりに出される値より大きくなるということ。

Cプラス「Cとほとんど同じもの」

本の株式市場では、この「足す」という作業をCにしていなかったから、
株式市場が算出する「会社の値段」=「実際の会社の値段」は、投資ファンドが、算出する「バーチャルCを足した会社の値段」より小さくなる。

投資ファンドは、財務優良会社、つまりCに「バーチャルC」を足すことができる株式を割安と判断する。
自分が計算した値段が、実際の値段より高くなっているから。

  • 投資ファンドばかりが儲ける世の中でいいのか?

第7章 M&Aの本質

支配権の売買

  • 100%買収があるべき姿
  • 支配権価格に「相場」はあるのか?
  • オーナーのわがままは構わない?
  • 経営者のわがままは許されない?
  • なぜM&Aが企業価値を生むのか
  • M&A価格算定とDCF方式
  • 支配権の値段の数値化作業

なぜ上場廃止を選ぶのか

これは、どちらかというと、
r(会社の安定性)という数値を評価するための調査
何かがあると、rの値が大きくなり、「会社の値段」が下がるから、必要な作業になる


第8章 日本の敵対的M&A 米国の敵対的M&A

  • 三タイプの敵対的M&A

良い、悪い、微妙

何をめぐる争いか?

  • 米国の敵対的M&A合戦

ディズニーの場合

  • 新たな展開

楽天とTBS

第9章 日本らしい「会社の評価」のために

  • 資本主義は万能?

敵対的買収防衛策の必要性

  • 会社への依存

国民性の違いか?

  • 会社の金融資産は本当に株主のものか?

おわりに
投資家が形作る国と社会