筆者 福島 肇(ふくしま はじめ)


1945年 兵庫県生まれ
1971年 東京大学教養学部基礎科学科卒業
小平錦城高等学校、駒場東邦高等学校教員を歴任。
創作科学読み物「光の探検」(コロナ社)で、1984年度東レ理科教育賞受賞
日本物理教育研究会 運営委員

という人が書いた物理イントロ本。

その昔、法学部の先生が、教科書の良し悪しを決めるのは
「論争的」であるかどうかと教わりました。
この本は、そのお手本なのではないかと思います。
「論争的」であることを、とことん追及したのは、こっちのほうが
先輩だったのかな・・・。

実験から、得られた事実をまず観察する。
その事実を、うまく説明できる理論の「候補」を挙げていく。
あえて、今は、通用しなくなっている「理論」も列挙していく。
燃焼という現象は、今では、物質に酸素原子が、くっつく、つまり「酸化」
という言葉で、説明される。

そこへ、あえて

「フロギストン」という物質が、あらゆる物質にあり、
火にかけられると、この「フロギストン」が飛び出すのが「燃える」
ということになる。

という、昔の有力説をもってくる。
日頃、目にする、直感的な現象の説明については、この「フロギストン」論法
でもなんとかなるという、トリックをしてみせ。
それでも、「フロギストン」説を使ったら、説明できない事実を列挙
していく。(燃焼した物質の質量は増加する→フロギストンが飛び出すということに
矛盾→理論の破綻)

他にも、
超有名論点
「光は、粒子なのか? それとも波動なのか?」
というのにも触れる。

光線が、水に入ると、屈折するという現象。
狭いところから、光線が出て行くときに起きる「回折」という現象。
光線は、鏡などに当たると、「反射」するという現象。

その現象ごとに、実は、どちらの説でも、整然としたロジックで現象が
説明できることを、論証する。

その上で、

「屈折」した光の速度は、「屈折」する前の光の速度に比べると、
速くなるのか。遅くなるのか。

という問題を設定する。

回転する鏡に、光線を当てる実験装置を使って、水に光線を通し、
水中の光線の速度を、測定する。

ここから、記憶が曖昧だけど、
実験の結果
 速度が、遅くなっていたら→波動説の勝利
 速度が、速くなっていたら→粒子説の勝利

こんな感じで、物理の世界での歴史的論点を、まさしく論争的に
展開・考察していく。
Detailが問題ではなく、ある事柄について、「教科書」を記述する際に、
どういうことが、大事なのかということを、痛切に感じます。

実験→事実→仮説→実験による検証→仮説の再構築→仮説から導出される理論的帰結の
実験事実による検証→仮説の再構築

このサイクルのうねりが聞こえてくるようです。

受験問題は、はたして、暗記だけで、太刀打ちできるのかどうか
という古典的な問題意識ともリンクするように、思う。
理科の問題作成者も、難関有名私立であれば、あるほど、受験生が
対策を練ってくるのは、熟知している。
じゃあ、どうやって、受験生のハシゴを外すのかとなると。
やはり、こういう思考方法にそって、学生を試そうとしているのではないかなとか。
そんなことを、思った。